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金属材料基礎講座-107

TTT曲線

 鋼のマルテンサイト変態を時間と温度に対して定量的して表したものがあります。鋼のオーステナイト温度からある温度まで冷却して保持した時の変化をグラフ化したのがTTT曲線(Time Temperature Transformation curve 等温(恒温)変態曲線)です。TTT曲線を図1に示します。これらグラフで表記される記号は以下のとおりです。

 

Ps:パーライト開始

Pf:パーライト終了

Bs:ベイナイト開始

Bf:ベイナイト終了

Ms:マルテンサイト開始

Mf:マルテンサイト終了

 

開始とはその組織があらわれ始める温度や時間を表します。終了とは全てその組織になることを表します。例えばMsはマルテンサイトがあらわれ始める温度や時間を表し、Mfは完全にマルテンサイト組織になる温度や時間を表します。また、PsとBs温度の間にある張り出した部分をノーズといいます。冷却速度が早ければ、ノーズを通らずにオーステナイトからマルテンサイト変態が起きます。しかし、冷却速度が遅ければマルテンサイトが現れる前にパーライトやベイナイトが現れます。そうなると焼入れが不完全になり、硬さも低下します。

 Ps、Pfのパーライト領域でも、温度が低いほどパーライト組織が微細になります。そしてBs、Bfのベイナイト領域では温度が高い場合、上部ベイナイト、温度が低いと下部ベイナイトと呼びます。上部ベイナイトは羽毛状の組織、下部ベイナイトは針状の組織となります。パーライト、ベイナイトともに変態温度が低く、組織が微細な方が硬さも高いです。

 パーライトとベイナイトは時間をかけて変態が完了しますが、マルテンサイト変態は時間をかけるのではなく温度が低下することによって変態が完了します。

 

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コメント: 7
  • #1

    グローバル・サムライ (水曜日, 29 5月 2024 15:05)

    最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。

  • #2

    マルテンサイト変態 (水曜日, 10 7月 2024 15:06)

    「材料物理数学再武装」といえばプロテリアル(旧日立金属)製高性能冷間ダイス鋼SLD-MAGICの発明者の方の大学の講義資料の名称だと思われます。同氏はマテリアルズ・インフォマティクスにも造詣が深く、AIテクノロジーに対する数学的な基礎を学ぶ上で貴重な情報だと思います。熱処理のTTT曲線がらみでは均一核生成モデルの解析なども載っていますし参考になると思いますね。

  • #3

    ベアリング関係 (木曜日, 03 10月 2024 17:13)

    そうですね。私なんかも熱処理の焼入れにおけるマルテンサイト変態の際
    重要となるTTT曲線の均一核生成モデルでの方程式の解析をMathCADで行い、熱力学と速度論の関数接合論による結果と理論式と比べn=2~3あたりが精度的にもよいとしたところなんかがとても参考になりましたね。

  • #4

    今年のノーベル物理学賞 (土曜日, 12 10月 2024 17:52)

    ノーベル物理学賞が贈られるジョン・ホップフィールド氏とジェフリー・ヒントン氏のことがスウェーデンのノーベル財団のウェブサイトで発表されていましたね。機械学習(AIテクノロジー)に関わる、深層学習に関する業績ということです。囲碁の名人戦で威力を発揮しましたが、ブラックボックス問題は複雑なものはやはり解明が難しいようです。

  • #5

    化学反応も負けてはいない(CCSCモデルファン) (土曜日, 12 10月 2024 17:54)

    スウェーデン王立科学アカデミーは9日、2024年のノーベル賞(化学賞)をジョン・ジャンパー氏ら3人に授与すると発表した。ベイカー氏は「計算によるたんぱく質の設計」、ハサビス氏とジャンパー氏は人工知能(AI)を利用した「たんぱく質の構造予測」の研究開発に貢献したと評価された。アカデミーは「3人の研究は生化学と生物学の研究に新しい時代を開いた」とたたえた。

  • #6

    私のスゴ本 (月曜日, 14 10月 2024 07:41)

    私なんかは、「材料物理数学再武装」がトライボロジー分野のストライベック線図においてペトロフの式とクーロンの式の関数接合論によるまさに接合の話がニューラルネットワークのシグモイド関数につながるところが面白かったですね。

  • #7

    潤滑機素設計関係 (月曜日, 04 11月 2024 11:43)

    「材料物理数学再武装」懐かしいですね。Facebook番外編の経済学の国富論における、価格決定メカニズム(市場原理)の話面白かった。学校卒業して以来ようやく微積分のありがたさに気づくことができたのはこのあたりの情報収集によるものだ。ようはトレードオフ関係にある比例と反比例の曲線を関数接合論で繋げて、微分してゼロなところが最高峰なので全体最適だとする話だった。AIテクノロジーに対する数学的な基礎を学ぶ上でも貴重な情報だと思います。それと摩擦プラズマにより発生するエキソエレクトロンが促進するトライボ化学反応において社会実装上極めて有効と思われるCCSCモデルというものも根源的エンジンフリクション理論として自動車業界等で脚光を浴びつつありますね。